湯道百選

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群馬・草津

奈良屋

NARAYA

湯は、
人によってつくられる。


江戸の温泉番付で、常に東の頂点に君臨していた草津温泉。今なお年間328万人が訪れる日本最高峰の温泉地である。開湯は奈良時代。その言い伝えを屋号にして明治初期に創業した宿が「奈良屋」である。風格ある玄関にかけられた暖簾には「徳川将軍お汲み上げの湯 湯宿」と記されている。そう、ここは単なる温泉旅館ではなく、最高の湯の提供こそを己の使命とする「湯宿」なのだ。

奈良屋六代目の小林恵生さん。宿の玄関前にて。

源頼朝が発見し、草津で最も古いとされる湯畑南西側の「白旗源泉」から湯を調達。50℃〜55℃とやや高めの源泉は、重力を利用した自然傾斜によって丁重に運ばれる。その源泉がそのまま風呂の湯になるわけではない。なんと奈良屋では、「湯小屋」と呼ばれる小さな貯水槽に一旦源泉を貯め、一昼夜寝かせて冷ますのである。46℃まで温度が下がった湯は各湯船に送られ、今度はそれを湯揉みして42℃の適温にする。そもそも源泉のPH値はレモン水と同等の2。強酸性の硫黄泉で、本来そのまま浸かるとピリピリと肌を刺すような痛みを感じるが、一昼夜寝かされ、湯揉みされた湯は、明らかに柔らかくなり極上の湯に変わる。まさに奈良屋の湯は、人の手によってつくられているのだ。

源泉を貯めておくための「湯小屋」。ここで一晩寝かせて温度を調整する。

奈良屋には「湯守」と呼ばれる職があり、湯に関するすべての仕事を担っている。現代の湯守は六代目。一年中24時間、その日の天候や客数を鑑みながら湯量を計算し、湯揉みをして、42℃の湯をつくり続けている。
 先代の湯守は、「湯とは手のかかる子どものようだ」と常々言っていたという。湯守とは、湯を守る人であり、子守をする気分で湯に愛情を注いでいる人なのである。

奈良屋六代目の湯守 石塚芳保さん。湯船の温度を毎日一定に保つよう、天候や気候によって変化する湯を丁寧に管理している。


Text by Kundo Koyama
Photographs by Alex Mouton

奈良屋

  • 〒377-1711 群馬県吾妻郡草津町草津396
  • TEL : 0279-88-2311
  • URL : https://www.kusatsu-naraya.co.jp/
  • 【宿泊】
    料金:¥27,500円〜(1泊2食/2名様1室利用時)

    【日帰り入浴】
    時間:12:30~14:00
    料金:大人1,200円 子供(3歳~小学生)600円(税込み)

草津温泉のシンボルとして、中心地に位置する「湯畑」から徒歩2分。好立地に位置する、創業明治10年の老舗宿。草津温泉に「湯守」が生まれたのは江戸時代。温泉(源泉)の管理人として、土地の領主から「湯守」の地位が与えられたことが始まり。何代にも渡る「湯守」の技や想いは先代から後輩へと伝承され、今もなお日本の伝統文化として、ここに息づいている。