子どもたちが
誇りを持てる地域に。
三重県津市、四方を山々に囲まれた美杉町。火の谷温泉「美杉リゾート」は今年で創業88年を迎えるエリアでは唯一のリゾートホテルだ。
美杉町は県内でも屈指の過疎地だったが、「中山間地域のありのままの暮らしをツーリズムとつなぐ」をコンセプトに、美杉町にある自然や人で活性化を目指す「Inaka Tourism」を実施。美杉リゾートを中心に、町全体を一つの宿泊施設として捉え、宿泊客が町を回遊するツアーを組んだり、農家民宿のプロデュースに関わったり、様々な試みをかたちにしている。
全体の指揮を務めるのは、美杉リゾート代表の中川雄貴さん。中川さんは同志社大学でソーシャル・イノベーション学を専攻しており、ツーリズム事業を博士論文にまとめて提出したそうだ。町の持ち味を存分に活かした体験型ツーリズムは、特に海外観光客からも好評だという。
美杉リゾートにはもう一つ、「クラフトビール」という強みがある。敷地内に、オリジナル製造の「火の谷ビール」の工場があるのだ。その利点を活かし、火の谷ビールが直接温泉に流れる「ビール風呂」や、チェックインからチェックアウトまでクラフトビールが飲み放題の「ビール部屋」なる名物もある。
ビールづくりを始めたのは中川さんの父親である先代。アメリカで口にしたペールエールに感銘を受け、その味を再現するためにビールの工場を建設した。中川さんは25歳の若さで先代から引き継ぎ、手探りの状態から火の谷ビールの新しい道を開拓していった。当初、製造工程だけは把握している程度だったが、その後独学でビール作りについて学び、今では思うような味や色を作れるようになったという。また、ビールづくりが地域の活性化に繋がるよう、一般的には大半が輸入されているビールの原料に地元の農産物を原料の一部に使うほか、自分たちでも大麦小麦を栽培している。ラベルデザインも自ら行うこだわりようだ。
中川さんに今後の展望について尋ねると、「美杉町の過疎は、地域に仕事がないのが原因のひとつ。今のツーリズム事業は、ひとつの産業を起こすという気持ちでやっています。また、地域を活性化させていくためには、地元の子どもたちが自分たちの住む地域を好きになることが大事。子どもたちが誇りを持てるような地域にしていきたいです」という答えが返ってきた。さらに、「ここでつくるビール以外にも、三重県全体のビールを楽しめる場所にしたい」とも。若きリーダーのもと、美杉町全体は今後ますます輝いていくことになるだろう。
Text by Chako Kato
Photographs by Alex Mouton & Misugi Resort official photo
火の谷温泉 美杉リゾート
- 〒515-3421 三重県津市美杉町八知5990
- TEL : 059-272-1155
- URL : https://www.misugi.com/
- 宿泊料金:13,600円〜(1泊2食付き、2名1室の1名料金)
貸切風呂:¥3,000(45分/税抜) ※メインビジュアルの風呂。
※ビール樽の持ち込みは、事前予約が必要。
大浴場 :日帰り入浴も可。料金 1,000円(人/税抜)※夏季は1,600円(人/税抜)
自然豊かな美杉リゾートは、近鉄線、榊原温泉口駅からシャトルバスで25分の場所にある。良質な天然水を使用し地元の酒米や大麦・小麦も使う「火の谷ビール」は、国際ビール品評会で銅メダルを受賞する実力派。ラガーを中心に常時3〜4種類を若手兄弟2人が醸造する。ここでは新鮮なクラフトビールと上質な湯を同時に楽しむことができる。