湯は、地元を照らす
「灯台」である。
日本有数の米どころ、庄内平野の水田の一角に2018年9月に誕生した温泉ホテル、その名も「スイデンテラス」。その浴場は、水田に飛来したUFOのようにも見える。設計を担当したのは、プリツカー賞も受賞している世界的建築家の坂茂さん。意外にもホテルの設計はこれが初めてだという。
そしてオーナーもまたホテル運営は初めて。「ヤマガタデザイン」という民間まちづくり会社が、地元の人々を株主として巻き込み、庄内の魅力を発信するためにこの壮大なプロジェクトを企画した。一つの企業が資金を出して、自分たちに都合のいいものを作るのではなく、地元の会社が一つになって地域課題を解決するための何かを創造する・・・それがホテルであり、温泉であった。では、牧歌的な農業をやっている庄内平野に似合う建築家は誰だろう?サスティナブルという考え方を誰よりも早く実践し、木の建築を得意とする坂茂さんしかいなかった。
スイデンテラスの湯に浸かれば、その狙いが見事に果たされていることを実感する。湯は1200メートルの地下から汲み上げる硫酸塩・塩化物泉。
緩やかな曲線で構成されるドーム型の坂茂作品に身を委ね、ややとろみのある露天風呂に浸かり、ひんやりとした風を頬で感じる。目の前に広がるのは庄内の田んぼ。地元の人にとっては当たり前でしかない田んぼが、これほどまでに美しいことを改めて知ることができる。
ここは地元の魅力を照らす灯台のように見えた。
Text by Kundo Koyama
Photographs by Alex Mouton
ショウナイホテル
スイデンテラス
- 〒997-0053 山形県鶴岡市北京田字下鳥ノ巣23-1
- TEL : 0235-25-7424
- URL : https://suiden-terrasse.yamagata-design.com/
- スパは、宿泊者と会員のみ利用が可能。
全119室。料金 ¥19,000〜(1泊素泊まりの1名料金)
庄内空港から車で約20分。田園風景の中に突如として現れるホテルは、まわりに広がる水田と、見事に調和している。雪国にしては珍しい大きな窓から、館内に陽光が降り注ぎ、明るくオープンな空間だ。2018年に開業。四季折々の、庄内の魅力を楽しむことができる。