家族の手作り洞窟風呂。
熊本県天草市の里中にある「大洞窟の宿 湯楽亭」。2代目の嶋田昭仁さんを筆頭に、家族で経営している温泉宿だ。湯は、赤湯と白湯の両方に浸かれ、食事は天草の海の幸を堪能できるなど、いろいろな楽しみ方があるが、何よりも耳目を引くのは「大洞窟温泉」。全長は32メートル、1996年に赤湯が湧いたことをきっかけに、嶋田さんと先代である父親が構想を思いつき実現させたという。
しかし、温泉が出たとはいえ、なぜ「洞窟風呂」だったのか? 嶋田さんにお話を聞いた。
「山中にあるうちの宿からは、海が見えません。お客さんにもっと喜んでもらうにはどうすればいいのか、父と話しているうちに、洞窟温泉を思いつきました。家族みんなの総意を得て、宿が暇になる1月から2月にかけて掘ろうと決めて。設計図も書いたのですが、なにせ素人なので変な方向に掘り進めてしまって(笑)。蛇行したようなつくりになりましたが、いまになればそれが味になっていてよかったと思います」
驚いたことに、嶋田さんと両親、嶋田さんの弟、妹、5人だけで、機械も一切使わずに洞窟を完成させたという。
「家族みんなで掘れたということが、非常に幸せな時間でした」
熊本地震の影響を受け、赤湯が出なくなったこともあるが、昨年の11月に見事復活した。困難にぶつかっても、いつも家族の力をあわせて乗り越えてきた嶋田さんは、この仕事を「天職です」と笑顔で語った。
嶋田さんはさらに、宿をサグラダ・ファミリアのように、来るたびに少しずつ変化がある場所にしたいという。訪れる人を喜ばせるために、家族みんなで楽しみながら働くために、日々新しい構想を練り続けている。大洞窟の宿に、これからも注目だ。
Text by Chako Kato
Photographs by Alex Mouton