湯は、
家族をひとつにする。
洞窟風呂という響きにはロマンがある。しかもそれを家族で手掘りして作った、と聞けばそこに感動が加わる。
日本秘湯の会にも加盟している天草の「湯楽亭」の名物は、全長32メートルにも及ぶ大洞窟風呂である。温泉の始まりは今から50年前、先先代が見た夢に始まる。ある朝突然、庭の一角に湯けむりが立ち上り、川が流れていた。さらにそこには、白い髭をたくわえた見知らぬ老人が立っている。何を尋ねても老人は無言のまま。やがて老人は顔を洗い始めた。不思議に思い、その川に手を入れると熱い。お湯が沸いている!と思った瞬間、老人は白い蛇に変わり、川の流れの中に消えて行った・・・そんな夢を見た先先代が庭を掘ったところ、本当に温泉が出たという。そして現在、「湯楽亭」と名付けられた家族経営のその宿は、弱アルカリ性の単純泉の白湯、塩化物・炭酸水素塩温泉の赤湯の二種類の湯に恵まれている。
平成8年に赤湯が出た時、二代目主人の嶋田秀雄さんは特徴ある温泉にするため洞窟風呂を閃いた。そして家族5人でひたすら掘り続け、大洞窟風呂を完成させたのである。3年前の熊本地震で赤湯は一旦でなくなったのだが、現主人の嶋田昭仁さんの懸命な努力によってつい最近復活。これまで含まれていなかった成分まで加わり、奇跡の湯としてよみがえった。
家族が一つになって掘った洞窟風呂に入り、薄明かりの中、赤湯に浸かる。母の胎内を思わせる安らぎは、家族の愛が作り出しているに違いない。
Text by Kundo Koyama
Photographs by Alex Mouton