湯道百選

10.5
山形・赤湯

山形座 瀧波

YAMAGATA THE TAKINAMI

旅館再生にかける想い。

東京駅から山形新幹線でおよそ2時間半。かつて宿場町として栄えた山形・赤湯温泉の一画に「山形座 瀧波」はある。100年の歴史がある老舗旅館。2017年に全館リノベーションを果たした。その立役者である代表の南浩史さんに宿への想いを聞いた。


「『瀧波』の次男として生まれましたが、20年近く関東の造船会社で働いていて、代表も務めていました。2011年の東日本大震災の影響もあり、経営が苦しくなりつつあると聞いて、立て直しのために山形に戻ってきたんです」

 再建のため故郷に戻った南さん。サービス、料理、インテリアなど、宿のコンセプトを一から見直した。特に、源泉をいかに新鮮なまま楽しんでもらうかというところに、深いこだわりを持っている。

「すべてにこだわった夢の旅館をつくろう、と考えました。客室の露天風呂は源泉掛け流し。配湯回路を見直して、お部屋に赤湯温泉の源泉が供給できるように整えました。お湯の温度は、3人の湯守が気温も考慮しながら管理をしています。カウンターキッチンを導入して、シェフが1人増えましたが、宿のスタッフはリニューアル前とほとんど変わっていません。だからこそ、今後は1人ひとりが新しいことにもっとチャレンジしていければいいなと思っています」


 一度故郷を離れた南さんだからこそ、見えてくる置賜の地のおもしろさや魅力がある。

「首都圏からいらっしゃったお客様に、山形の野菜やお米の素晴らしさに気づいていただければ。将来的には瀧波が、山形・置賜のショールームのような存在になるのが理想です。山形には魅力的なものがたくさんありますが、やはり一番は『人』。おもてなしをしよう、という心を持っていることこそが、山形らしさではないかと思います。東京駅から2時間半の旅でチェックインできるので、心のふるさとに帰ってくるように来ていただけると嬉しいです」




翌朝、車で山頂へ連れていってくれるツアーがある。朝から絶景の中で飲むりんごジュースは、格別の味。



「山形座 瀧波」代表の南浩史さん。親族みんなで瀧波の再生に取り組んでいる。


Text by Chako Kato
Photographs by Alex Mouton

山形座 瀧波