湯道百選

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山形・赤湯

山形座 瀧波

YAMAGATA THE TAKINAMI

湯は、土地の魅力を紡ぐ。


 大正のはじめ、瀧蔵とお波という夫婦が山形の赤湯温泉に湯治の宿を開いた。ふたりの名前から「瀧波」と名付けられたその宿は、やがて地元の名宿と言われるまでに発展。そして創業100年を機に大胆なリニューアルが施され、土地の魅力を発信する宿として生まれ変わった。
 置賜盆地の魅力は何と言っても「湯」と「食材」である。湯は透明だが、硫黄を含む塩化物泉なので温まりやすく健康にもいい。もちろん源泉かけ流し。ただし蔵王石をくり抜いた露天の浴槽には、これ見よがしの湯口はない。宿の主人は、空気に触れさせることなく浴槽の底から湯を注ぎたかった。


 温泉は空気に触れた途端に劣化が始まる。地中から湧き出す成分をそのままの質で堪能して欲しいという想いから、それまで使っていたタンクを廃止し源泉の供給システムを一新して、生まれたての湯をダイレクトに各部屋へ共有できるようにした。61℃で湧き出す源泉を水で薄めることなく、3人の湯守によるバルブの細かな開け閉めのみで湯の加減を調整している。



 食の追究も怠らない。旅館には珍しい、ライブ感溢れるオープンキッチンを採用。無農薬栽培に取り組む農家の多い置賜のオーガニック野菜を使い、庄内からの魚介と信頼する生産者の肉を天然醸造の調味料でヘルシーに仕上げる。料理に合わせるのは、酵母にまで拘った地元の日本酒と山形産のワイン。

 床に入る前にもう一度、湯に浸かる。すると気づけば山形の魅力を反芻している自分がいるのである。


Text by Kundo Koyama
Photographs by Alex Mouton

山形座 瀧波