湯道百選

108.5
長崎・壱岐市

平山旅館

HIRAYAMA RYOKAN

めぐる湯、めぐる人生


玄界灘に浮かぶ長崎県の離島、壱岐島。歴史的な遺産や、150以上の神社があることから「神々が宿る島」とも呼ばれている。そんな壱岐では温泉文化が古くから盛んで、島には13の源泉があり、すべての宿泊施設と日帰り温泉が自家源泉を備えている。もちろん、どの温泉も源泉掛け流しで堪能することができる。


中でも、壱岐の温泉として最も古い歴史があると言われるのが平山旅館の「旧湯(ふるゆ)」。泉質はナトリウム塩化物泉、湧き出てくる時は透明だが、空気に触れると鉄分が酸化し赤い色になる。
「保湿力や体が温まる効果は100%だと思います。入った皆さん、汗をだらだら流しながら『あたたまりました』と言ってくださいます。1回入るだけで効果を感じるという意味では、昔の人が『これは薬湯だ』と言っていたのは説得力があるなと思います」と、お湯の特徴について3代目女将の平山真希子さんが教えてくれた。


旅館では、源泉を貯湯タンクに入れて水道水を温める熱交換システムを採用。旅館のシャワーと食器洗いのお湯は、その熱交換した水でまかなっているそうだ。さらに、タンクに貯めた温泉の蒸気をミストサウナとしても活用している。これは2代目当主で現会長である平山敏一郎さんの「温泉は有限だから大事に使え」という考えから生まれた取り組み。温泉の力は旅館の隅々に息づいているのだ。


平山旅館を語るには「循環」の言葉も欠かせない。食材は自分たちで調達するのがモットー。料理長である3代目の平山周太朗さんは、100キロ超えのマグロやウナギを釣ることもあるそうだ。鶏やうずら、対州馬、日本ミツバチなどを飼育し、旅館で出た残飯や野菜くずは家畜のエサや畑の肥料になる。
「先代の頃から循環型社会を続けています。うちのお義父さん(2代目)は究極のケチかもしれないけど、それはものをいちばん大事にするってことなので。そういう精神的なところも受け継いでいきたいなと思います」

三代目女将・平山真希子さん。

女将の真希子さんは千葉県の出身。外資系企業の広報を経て、かつては群馬県みなかみ町の観光協会に勤務していた。その仕事を通じて先代の女将である平山宏美さんと出会い、縁あって3代目女将として働くことになった。壱岐に暮らし、働き、その魅力を発信することが何よりの喜びだと言う。
「壱岐の良さや文化、温泉の良さをどれだけ伝えられるかということが、自分の楽しみになっています。そういう意味では、今までの仕事が全部活きていますね。皆さんが壱岐を好きになってくれることが楽しいです」


Text by Chako Kato
Photographs by Alex Mouton

平山旅館

  • 〒811-5556 長崎県壱岐市勝本町立石西触77
  • TEL : 0920-43-0016
  • URL : https://iki.co.jp
  • 料金: 一般 ¥800(日帰り入浴)
        宿泊 ¥33,000〜(1泊、1名あたり)