湯道百選

106.5
神奈川・足柄下郡

彫刻の森美術館 森の足湯

THE HAKONE OPEN-AIR MUSEUM MORI NO ASHIYU

森と芸術に浸る時間


昨年で開館55周年を迎えた彫刻の森美術館。それを記念し、設営から20年が経っていた足湯が「森の足湯」として新しく生まれ変わった。

足湯を見つめ直すことは、美術館周辺に広がる箱根の自然の豊かさに気付くきっかけにもなったそうだ。箱根で働く美術館のスタッフにとって、風光明媚な山々はあってあたりまえの存在。現在の足湯が、風景をながめながらのスタイルになったのは、デザインを担当したトラフ建築設計事務所の影響が大きいという。
「『山が近い』とトラフ建築設計事務所のお二人が美術館の外の風景をずっと見ていたんです。この手付かずの自然はすごく魅力的だとおっしゃっていたので、足湯は山の方に向けることにしました。毎日ここにいる僕だと全然そういうことは思いつかなかった。確かに魅力的だなと今は思っています」と、箱根運営部副部長の福間光宣さんは当時のことを話してくれた。


耳をすませば沢の流れる音や、野鳥の鳴き声が聞こえてくる。箱根の自然の豊さを肌で感じながら足湯で心身を癒し、アート作品も味わえるのは、きっとこの美術館だけだろう。

足湯は春夏秋冬を通しての魅力も尽きないと福間さんは言う。
「私が『気持ちいいなぁ』と感じたのは春先ですね。冬は湯気が立って、湯船が煙の作品のようになってすごくきれいですね。秋は山が紅葉になるのでそれもきれいですし、夏は浸かっている足は熱いんですけど、風が吹くと風が気持ちいいですね。箱根ならではだと思っています」


観光地ということもあり、美術館にはもともと家族連れの来館者が多い。足湯はその家族連れにも、新しい楽しみをもたらすようになったそうだ。
「普通のお風呂だと男湯と女湯に分かれますよね。家族三世代で横並びに浸かって『気持ちいいね』と、同じ体験ができるのが足湯の魅力。家族一緒に思い出を作れるようになってよかったと思います」
 新しいコミュニケーションや思い出を生み出す場としても生まれ変わった足湯。いいお湯の元には、いい笑顔が集まってくる。


Text by Chako Kato
Photographs by Alex Mouton

彫刻の森美術館 森の足湯