湯道百選

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山口・防府市

東大寺別院 阿弥陀寺 石風呂

ISHIBURO

心身浄化の石風呂


間違いなく、人生最高の発汗体験だった。北欧のサウナや韓国の汗蒸幕はんじゅんまくでも、これほど汗が心地良く吹き出したことはない。

山口県防府市の東大寺別院阿弥陀寺境内にある「石風呂」の歴史は鎌倉時代に遡る。焼き討ちにあった東大寺は、再建に使う木材を切り出すための拠点として全国各地に別所を建立。重労働に従事する人夫たちをねぎらうため石風呂が造られた。その歴史を汲んで昭和56年に復刻されたそれは、風呂の原型である蒸し風呂、つまり和のサウナである。

JR防府駅からクルマで約15分。月に1度の営業だが県外からも客が集まる。タオル、着替え、汚れてもよい服、水分は各自で持参。

7〜8人が入ることのできる石で囲まれた4畳半ほどの空間。ここに軽トラ1台分の薪を積み上げ、早朝から4時間焚き続ける。その燃えかすを掃き出して囲炉裏に移し、床に薬草(石菖)を敷き詰めてその上にムシロを敷いたら完成!直後は150度以上になるため、毛布にくるまり入浴する。時間とともに徐々に温度は下がるが、夜までは蒸し風呂状態が続くという。

阿弥陀寺湯屋・石風呂保存会の清水博美さん(左)と山縣稔さん(右)。休憩室の囲炉裏を湯あがりの客と囲み、話に花を咲かせる。薪は住職が、床に敷く薬草は山縣さんが山から集めている。

今回は夕方に入ったため、絶妙な加減の温度になっていた。初対面同士でも、車座になるとついつい話が弾む。他愛無い話だが、時を忘れるほど楽しく、気づけば信じられないほどの汗が吹き出し、ご縁が紡いだ邂逅に心まで揉みほぐされていた。

この貴重な「心身浄化の石風呂」を守っている保存会のメンバーは、もはやふたりだけ。これは未来に遺すべき未来遺産なのである。


Text by Kundo Koyama
Photographs by Kei Sugimoto

東大寺別院 阿弥陀寺 石風呂

  • 〒747-0004 山口県防府市大字牟礼上坂本1869
  • TEL : 0835-38-0839
  • URL : https://yamaguchi-tourism.jp/blog/
  • 料金:一般 ¥500(薪代)
    営業時間: 11時〜18時 毎月第一日曜日