後世に遺したい
自然の産物

湯に浸かれる世界遺産があると聞けば、興味が湧く人も多いだろう。2004年、世界遺産に登録された「紀伊山地の霊場と参詣道」。参詣道(熊野古道)の一部として登録された湯の峰温泉のつぼ湯は、世界遺産で唯一の入浴できる温泉となり、注目を集めている。
「これまではひなびた温泉場だったのですが、日本のみならず世界に発信されたということもあって大勢の方にお越しいただいています」と、世界遺産熊野本宮館館長の安井健太さん。湯の峰温泉の管理に長年携わってきた一人だ。

湯の峰温泉には源泉が20箇所以上あり、いずれも自然湧出によるもの。開湯はおよそ1800年前で、その時に発見されたのがつぼ湯の足元湧出泉であると伝えられている。
現在は30分の貸し切り制。予約は出来ないため、早い人は営業開始の1時間前、朝5時から並ぶとか。ほとんどの人が入浴の前か後に熊野本宮大社を参拝していくのも、この温泉場ならではの風景だ。

つぼ湯の浴槽の深さは70センチほど。自然に出来た約2メートルの窪みを石で埋め、湯船として使っている。毎日、水中ポンプで湯を吸い上げて掃除し、さらに年に2回、湯船の中の石をすべて取り出し、ひとつひとつ手で洗いまた元に戻す……という大掛かりな清掃も実施。天然の温泉であるがゆえに大変なことも多いが、「皆さんに喜んでいただければいいかな」と安井さんは言う。
「『優しい温泉でした』とお客さんに言われると嬉しいですね。やっぱり100年200年、それこそ1000年後も同じ状態をどう保っていくか。自然のものなのでどうなるかわかりませんが、なるべく現状のまま維持していくことが大事だと思います」
唯一無二の温泉は、安井さんをはじめ、たくさんの人の手で守られ、受け継がれている。
Text by Chako Kato
Photographs by Alex Mouton
湯の峰温泉 公衆浴場・つぼ湯
- 〒647-1732 和歌山県田辺市本宮町湯峯108
- TEL : 0735-42-0074
- URL : https://www.hongu.jp/onsen/yunomine/tuboyu/
- 営業時間:6時~21時 ※30分交代制、予約不可
定休日:不定休
料金 :一般¥ 800円