秘湯の魅力。
秋田県湯沢市の「鷹の湯温泉」。秋田空港から車を走らせて1時間半、標高400mの山奥にあるまさに「秘湯」で、冬には2メートル以上雪が積もることもある。その昔、鷹と鷹匠が傷ついた体を湯で癒した言い伝えからこの名前がついたという(動物が温泉で傷を治した伝説は各地にあるが、鷹匠も身を癒す話はめずらしいとのこと)。「日本秘湯を守る会」が厳選された宿のひとつでもあり、全国から通な温泉好きが訪れる。四代目主人の小山田光太郎さんにお話を聞いた。
「創業は明治18年で、もともとは農家の方々の湯治場でした。いまは『日本秘湯を守る会』で知ってくださるお客さんが多くて、関東や仙台からのお客さんがほとんどです。私は25歳からここで仕事をしておりまして、もう45年が経ちます。早く息子に引き継いで、庭づくりにでも専念したいんですけどね(笑)」
家族経営で、現在は8人で切り盛りをしている。冬には雪見風呂を求めて、週末にたくさんの人が訪れるが、頻繁に雪かきや屋根の雪下ろしをする大変な季節でもある。
「私がいちばん好きな季節は5月の下旬ごろ。針葉樹と落葉樹で葉の色に違いが出て、景色がとてもきれいです。緑を見ながらお湯につかるのは気持ち良いですよ。ちょうど山菜も採れる時期。その日使う山菜だけを敷地の山で採って、夏には地元の野菜とあわせて陶板焼きにしてお客様に出します。それから、料理で評判なのはイワナの刺身や焼き魚です。イワナを刺身で食べるのは初めて、というお客様の声をよく聞きます」
深さ130センチの立ち湯がある大浴場や露天風呂、岩場に囲まれた野天風呂に足湯など、温泉の種類も豊富。宿泊部屋は現在17部屋あり、料金は1万2千円と1万5千円の2通り(1万5千円コースには夕食に黒毛和牛・みなせ牛のステーキがつく)。日帰りの入浴も可能だ。
「うちはリピーターのお客様が多いです。温泉で贅沢をしよう、というのではなく、このひなびた、質素な雰囲気を気に入ってくれているのだと思います。最後、お客様に『また来ます』と言われるのが、仕事をしていていちばん嬉しい瞬間です。それはどこの宿でもきっと同じでしょうね」
Text by Chako Kato
Photographs by Alex Mouton
鷹の湯温泉
- 〒019-0321 秋田県湯沢市秋の宮字殿上1
- TEL : 0183-56-2141
- URL : http://takanoyuonsen.web.fc2.com/
- 料金:(大人)650円 (子供)325円
営業時間(日帰り入浴):11:00-14:00
宿泊:客室数 17室