湯は、生きものである。
京都に豪華な湯室をもつ風呂道楽の友人に「日本でいちばん好きな温泉は ?」と尋ねたら、「妙見石原荘」と即答された。
鹿児島空港からクルマでわずか15分、里山の風情を残す妙見温泉は明治の頃より湯治場として栄えてきた。湯を主役にする姿勢はそのままに、料理と空間を磨き上げたラグジュアリーな宿が「妙見石原荘」である。霧島山系から流れ出る天降川の渓流沿いに1万坪の敷地を有し、そこに点在する源泉は実に7カ所。そのすべてが自噴する湯のかけ流しである。
そして何より、湯の扱い方が素晴らしい。ナトリウム・カルシウム・マグネシウム-炭酸水素塩泉をなるべく新鮮な状態で、つまり炭酸成分が抜けないようにするためそれぞれの源泉の近くに個性の違う風呂を設置。56°Cとやや高温の源泉を薄めないために、山水を利用した熱交換器で適温に冷まし、空気に触れさせることなく浴槽に注いでいる。「ここの湯は鮮度が違う」という印象を受けたのだが、その理由を聞いて驚いた。湧き出して1時間以上経った湯を浴槽に残したくない、そのために源泉の湧出量から逆算して、それぞれの浴槽の大きさを決めているのだという。
川沿いの「椋の木」と名付けられた露天風呂に浸かった。炭酸の衣に包まれ、川のせせらぎと鳥のさえずりに耳を澄ますと、もつれていた心が少しずつほどけ始めた。自分のいのちが、地球のいのちに癒されるような感覚。湯は生きている、と改めて思った。
Text by Kundo Koyama
Photographs by Kei Sugimoto
妙見石原荘
- 〒899-5113 鹿児島県霧島市隼人町嘉例川4376番地
- TEL : 0995-77-2111
- URL : https://www.m-ishiharaso.com/
- <日帰り>
営業時間:11:00~15:00(受付14:00迄)
料金:大人:1,200円/小人:600円
<宿泊>
¥25,000~(1泊1室2名利用時の1 名料金)
鹿児島空港よりクルマで約15分のところにある妙見石原荘は、1966 年に創業。滞在中は川沿いの5種類の風呂を愉しむことが出来る。霧島火山の恵みである温泉と地の素材を使った食事を存分に堪能できる宿。