湯道百選

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ベトナム・ターフィン

ザオ族の薬草湯

DAO DO BATH

湯は、
山の恵みを身体に運ぶ。

海外への旅が当たり前だった時代が、もはや遥か昔に感じられる。もしコロナ禍が収束したら、まずどこに旅しよう?目を瞑り過去を振り返ると、薬草の香りが記憶の中に蘇った。そうだ!ベトナムに行こう。

 首都・ハノイから寝台列車に揺られること11時間。中国との国境に近い高原リゾートのサパから、さらに車で山奥に入った山岳地帯に「ターフィン」という小さな村がある。ここに暮らしているのは、ザオ族という少数民族。彼らの暮らしには、薬草風呂の存在が欠かせない。女性たちが山に入り収穫した薬草を十種類ブレンドして、薬草風呂を作るのだ。その配合はそれぞれの家で微妙に違うらしいが、多用されるのは泡の出る木。石鹸を入れたように泡立つ不思議な木で、泡によって毛穴を開かせ、薬草の成分を身体に取り込みやすくする効果があるという。


一年半前、仕事でターフィン村を訪れた際、薬草風呂を観光客にも提供している浴場を偶然見つけた。浴場と言っても家庭の風呂に近い。キッチンの脇に高さ3mほどの釜があり、底で燃える薪を一匹の黒猫が見つめていた。その釜で薬草を何時間も炊き、成分を抽出する。それをバケツで何往復もして樽型の浴槽に移し、加水して湯加減を整える。極上の薬草風呂の完成だ。

泡はあるものの、石鹸のような滑りは無い不思議な感触。薬草の成分が身体の中に染み込み、邪悪なものがすべて外に排出されていく。山の恵みを頂き、たちまちのうちに旅の疲れがとれた。忘れられない湯の思い出のひとつ。


Text by Kundo Koyama
Photographs by Mineko Orisaku

ザオ族の薬草湯

  • 〒 基本的に非公開

標高1600mに位置し、美しい棚田に囲まれている小さな村、ターフィン。かつてフランスの植民地だったことから、古い教会の跡が遺り、歴史を感じさせる。ベトナムには5種のザオ族がおり、ターフィンに住む赤い頭巾が特徴の民族は、通称「赤ザオ族」と呼ばれる。観光客は、村人の家に滞在して地元の日常生活を体験することもできる。2019年まではベトナム北部の都市、サパよりザオ族を訪ねるツアーが企画されていた。