湯道百選

45.5
宮城・仙台市

慈眼寺の湯

JIGENJI NO YU

自分が土に還るとき。


仙台の繁華街からクルマで40分ほどのところにある「慈眼寺じげんじ」。
住職の塩沼亮潤さんが奈良県吉野の大峯山での厳しい修行を経て、開山したお寺だ。その修行、1日48kmを1000日間歩く「大峯千日回峰行」と、9日間飲まず・食べず・寝ず・横にならずの「四無行しむぎょう」を成し遂げたのは、1300年の間で塩沼さんを含めたった2人。塩沼さんは現存で唯一「大阿闍梨だいあじゃり」を名乗れる僧侶だ。

「大峯千日回峰行では、毎年5月3日から9月3日くらいまで4ヶ月歩きます。はじめの1ヶ月で、カルシウム不足で爪が砕けてくるんです。3ヶ月目になると梅雨明けで、40度近くまで気温が上がるので、一気に体力が落ちて必ず血尿は出ますね。わたしは今52歳なのですが、
50歳を過ぎてはじめて、この修行は人間がやるもんじゃなかったなと思いました(笑)。それを9年間、続けました。
たしかに肉体に受ける苦痛は尋常ではないのですが、わたし自身は楽しかったんです。普通、つらいことや苦しいことがあると心が折れそうになるものですが、わたしは『もっとやってやるぞ!』というアドレナリンのようなものが出ていて、修行中はとにかく楽しかったんです。だからできたんだと思います」


慈眼寺で月に二度行われる護摩祈祷には、駐車場が埋まるほどの人が訪れる。厳しい修行を乗り越えた塩沼さんが発する言葉を求める人も多く、講演会などの場で話をする機会もよくある。しかし、塩沼さんは開山した慈眼寺を自分の代のみで終わらせ、後継者を探さないことを決めているという。その決意には塩沼さんの「信仰」への考えが込められている。

「開祖が亡くなったあと、ややもすると維持経営が主になり、守りに入ってしまう傾向が強いので、わたしは一代限り、自分が土に還ったら、もういいんじゃないかと考えています。もともと宗教は、カタチやモノやお金ではないと思うんです。大切なのは信仰です、信じ仰ぎみる心。自分が手を合わせたい時に足を運ぶ…これが信仰心だと思っています。いろんなカタチを付けてガチガチにするよりは、信仰は心でするものだと思うので、とくに宗教に入らないといけないことはない、というのがわたしの考え方ですね。千日回峰行で得た感性なのだと思います」



Text by Chako Kato
Photographs by Alex Mouton

慈眼寺の湯

  • 〒982-0244 宮城県仙台市太白区秋保町馬場字滝原89-2
  • TEL : 022-399-5333
  • URL : http://www.jigenji.net/
  • ※一般入浴不可

慈眼寺は、JR仙台駅からクルマで約40分の場所にある。2003年に塩沼亮潤氏によって開山された。願い事が浄書された護摩木を護摩の火でお焚き上げして祈願する「護摩祈祷」を、毎月第1第・第3日曜日に行う。「護摩を焚くこともまた、お風呂にはいるようなものだ」と、塩沼氏は言う。
著書に『人生生涯小僧のこころ』(致知出版社)など多数。