入浴は修行のひとつ。
臨済宗妙心寺派大本山・妙心寺は、京都でも最大の禅宗寺院。塔頭大嶺院の密宗和尚が創建したのが妙心寺の浴室、通称「明智風呂」だ。かの明智光秀も入った風呂、という言われではなく、密宗和尚が甥である明智光秀の葬いとして、没後5年に建立した浴室なのだ。本堂には本尊・釈迦如来坐像と、明智光秀の位牌が安置されている。明智光秀は主君を討ったため堂々と墓が建てられなかった・・・など、浴室が建立された由来は諸説伝えられているが、歴史的な確証はないという。
禅宗と入浴は昔から密接な関係にある。浴室は、禅宗寺院の伝統的な七堂伽藍建築(山門・法堂・仏殿・禅堂・庫裏・東司(便所)・浴室)の一つであり、そして日常の立ち振る舞い全てが修行の場である「威儀即仏法」の考えから、心と体の垢を落とすために、修行には欠かせない役割を果たしている。明智風呂でも、祀られている跋陀婆羅菩薩を2回拝んでから入浴、退室する際にもう1度と、計3回拝むという決まりがある。
浴室は昭和2年頃まで、寺の僧侶たちが使用していたという。また、寄付をした人や浴室に携わった人の供養をしてほしいという要望が増えたため、その人々の命日で月の半分を開浴の日としていた歴史もあったそうだ。現在ではもちろん入浴はできず、特別公開の際にのみ見ることができる。数百年前につくられた歴史に彩られた浴室を見に、京都を訪ねるのもいいかもしれない。
Text by Chako Kato
Photographs by Alex Mouton
大本山妙心寺・浴室
- 〒616-8035 都府京都市右京区花園妙心寺町1
- TEL : 075-461-5226
- URL : https://www.myoshinji.or.jp/worship/keidai/317
- 重要文化財のため現在は非公開だが、期間限定で特別公開されることもある。
46の塔頭をもつ日本最大の禅宗寺院、臨済宗妙心寺派大本山・妙心寺。「浴室」は建立当時から昭和の初めまで一般庶民の入浴は許されておらず、僧侶の修行場としてのみ開浴されていた。