湯は、ZENの扉を開く。
2020年を契機として、日本の地方が面白くなっている。革新的な宿が東京ではなく地方に続々と誕生。去年、長野県の南木曽町にオープンしたラグジュアリー古民家「Zenagi」はその好例だろう。300年前に建てられ、150年前にこの地に移築されたという古民家を、黒漆や和紙でリノベーション。時間の記憶を随所に漂わせるデザインが秀逸だ。3室のみのゲストルームはすべてメゾネットスタイル。アクティビティも充実している。特に気になったのは、真冬のシャワークライミング。川を泳いだり流されたりして、凍った絶景の滝壺を目指す。その氷柱をとって宿に持ち帰り、ロックウィスキーとして楽しむという。人生の記憶に残る唯一無二の経験……これこそが真のラグジュアリーに他ならない。
Zenagiという名前は、4つのZENで南木曽に迎えるという宿のコンセプトに由来している。そのZENとは、
①あらゆる恵みを与えてくれる周辺の大自然
②地元の食材をアートの領域まで昇華させる素晴らしい料理の膳
③ゲストの喜びが地方創生にもつながる善
④坐禅の禅
ここに滞在することで、心身が癒され本来の自分に出会える……まさに禅の宿なのだ。
ここでは入浴もひとつの禅体験となる。石庭を望むミニマルな設えの浴室。伊勢神宮にご神木として奉納されている木曽の檜を使用した浴槽は、プロダクトデザインの巨匠・川上元美氏が線を引き、檜創建が製造を担当した。檜の香りがする湯に身体を沈めると、日頃の煩悩が消え、自分の心が空っぽになっていくのが分かる。湯が、ZENの扉を開いてくれる気がした。
Text by Kundo Koyama
Photographs by Alex Mouton
Zenagi
- 〒399-5303 長野県木曽郡南木曽町222
- URL : https://zen-resorts.com/
- 料金:¥120,000〜(1泊3食、1体験付き、1人あたりの料金/サービス料、税別)
「心を静めて身体を動かす」をテーマにした、わずか3室、定員12名のホテル。棚田を見おろず高台に移築された古民家には、静謐な空気が漂っている。一方で、モダンなインテリアが見事に調和しており、センスの良さを随所に感じられる。季節に応じたアクティビティが用意され、経験豊富なガイドたちがサポートする。各部屋には趣の異なる檜の風呂を配置。南木曽ならではの特別な体験ができる宿である。