湯道百選

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兵庫県

國井総一郎さんのお風呂

MR.SOICHIRO KOKUI'S PRIVATE BATH

湯は、
男の夢をかたちにする。

日本の湯の歴史を語る時、太田おおた敏郎としろうという男の存在を忘れてはならない。現在92歳。今から69年前、戦後の荒れ果てた神戸の街で、太田は「能率風呂」という画期的な風呂釜を発明した発明者と出会った。その当時主流だった五右衛門風呂とは違って熱い湯が足元から出てくる、まるで温泉のような風呂。海軍兵学校にて学んでいた太田は、訓練後に入る風呂こそが、いちばんの幸せだったことを思い出した。凍てついた身体が心地良い湯で癒され、ふるさとの母を思い起こした若き日・・・
そうだ!「風呂は人を幸せにする」と確信した太田は、能率風呂の販売を始めた。これこそが現在日本の給湯機器のシェア40%を誇るノーリツの原点である。風呂で世の中を幸せにしたい!という太田の情熱は数々の発明につながり、世界でも類を見ない“毎日の入浴が当たり前の社会”を作り出した。

株式会社ノーリツの創業者であり、現名誉会長である太田氏の自叙伝。

そんなノーリツの現在の社長は一体どんな風呂に浸かっているのだろう?純粋な好奇心から図々しくも取材の依頼をしたところ、驚くことに許可が降りた。現社長、國井こくい総一郎そういちろうさんの自宅の風呂場初公開である。当然ながらノーリツ製。小窓からの風が心地良く、テレビも付いている。しかも栓が自動で閉まる最新式だ、と思ったら14年も前のものだった。冷静に眺めると、想像していたよりも普通のバスルーム。しかしこの指一本で沸くごくごく普通の風呂の歴史を頭の中で旅すれば、今自分が特別な湯に浸かっている気分になる。
 ここは一人の男の夢を形にした場所。改めて言おう。そのおかげで、我々は今夜も幸せな湯浴みができるのである。ありがとう、太田敏郎。

株式会社ノーリツの現社長・國井こくい総一郎そういちろう氏。1953年兵庫県生まれ。76年に姫路工業大学(現兵庫県立大学)工学部を卒業後、ノーリツに入社。以来、研究・開発部門、経営企画部門などで研鑽を積み、2001年には赤字子会社の社長となり再建を果たした。2009年より現職。


Text by Kundo Koyama
Photographs by Alex Mouton

國井総一郎さんのお風呂

  • 〒 ※個人宅のため、非公開