絆が繋いだ、百年の湯。
兵庫県尼崎市、阪神本線「杭瀬駅」から歩いて7分、民家が建ち並ぶ中で唐破風の屋根が目を引く「第一敷島湯」。2023年、創業100年を迎えた老舗の銭湯。昔は近隣に第二、第三の敷島湯もあったそうだが、いまも残るのはここだけ。現在は3代目の大将である黒木達也さんと、女将の久美子さん、そして大女将の功子さんの3人で切り盛りしている。
青い暖簾をくぐって中に入ると、脱衣所には常連客の洗面道具が置かれた棚、番台には杭瀬の書店がセレクトした本棚など、地域の人たちと親密な様が随所に浮かび上がってくる。浴場では、今ではめずらしい円形の浴槽や広告付きの鏡、創業当時のままのタイルにお目にかかれる。
記念すべき100年目は波乱の年でもあった。1月、浴槽修理のためにクラウドファンディングを開始した直後、大将・達也さんの足の手術、急性膵炎による入院が相次ぎ、急遽久美子さんが銭湯の仕事をすべて任されることになった。
「いまだから笑って話せるけど、踏んだり蹴ったりのボロボロの100年目でした」
夫婦2人は明るい口調で教えてくれるが、実際いつ閉業を決めてもおかしくない、ぎりぎりの状況だった。だが、久美子さんの頭に「やめる」という選択肢は不思議と浮かばなかったという。
「『やらなあかん』という想いがとにかく大きくって。後押ししてくれる人が多かったんですね。杭瀬の市場の食堂では、うちの桶で手浴をやってコラボをしてくれたり、お客さんがクラウドファンディングのサイトを作るのを手伝ってくれたり。近所のお客さんは『もうあんた、夕飯作られへんやろ』って、おかずを毎日、毎日持ってきてくれて……もうすごい助かりましたね。そうやってなんとか乗り越えました。あとで仲のいい銭湯の女将さんから、『あんた、第一敷島湯の暖簾に踊らされたな。100年の暖簾って怖いねんで、生き物やからな。そう簡単にはやめられへんで』と言われて納得しました」
たくさんの後押しも、銭湯が杭瀬でかけがえのない存在だったからこそ。伝統を背負った暖簾、そして地域の人との絆が第一敷島湯の命をつないだ。
無事、大将の達也さんは回復を遂げ、今ではお湯焚きや清掃など銭湯の仕事にも復帰。2023年9月にはクラウドファンディングの成功により名物の「薬湯」がよみがえった。銭湯の歴史が続いていくのはもちろん、黒木さん一家みんなで銭湯を切り盛りできるのが100年目の何よりの祝福のはず。第一敷島湯は杭瀬の町で、100年先もその歴史を刻んでいく。
Text by Chako Kato
Photographs by Kei Sugimoto
第一敷島湯
- 〒660-0814 兵庫県尼崎市杭瀬本町1-25-5
- TEL : 06-6481-7120
- URL : https://shikishimayu.jimdofree.com/
- 料金:大¥440、小¥160、幼¥60
営業時間: 17時~23時
定休日:火曜日
建物は1923(大正12)年に完成した。湯の温度は40.2~41°C。
クラウドファンディングで目標金額を達成し、故障により休止していた薬湯が復活した。