湯は、愛に沸かされる。
兵庫県尼崎市の「第一敷島湯」は、1923年の創業からちょうど100年目となった今年の1月、存続の危機にさらされた。濾過器の老朽化と地中配管の故障から、一部の浴槽が使えなくなってしまったのだ。三代目当主の大将・黒木達也さんは廃業も考えたが、存続を望む町の声が絶えない。そこでクラウドファンディングで修理費用の寄付を募ることにした。ところがその直後、大将は病に倒れ、妻の久美子さんが運営を任されることになる。
女将として銭湯を切り盛りするも、これまでは番台担当で湯を焚いたことはなかった。病床の大将から焚き方や濾過装置の操作を教わり、四苦八苦の日々。寝る間もないほどのハードワークが続いた時、助けてくれたのがSNSで集まったボランティアの人たちだった。地元はもちろん、東京や広島からの応援団は総勢40名。女将は、100年経った暖簾を生き物のように感じたという。薪で湯を沸かす昔ながらのスタイル。この湯を愛する多くの常連客たちに支えられて、第一敷島湯は蘇った。
唐破風屋根の玄関をくぐり、昭和の匂いのする湯屋に足を踏み入れる。珍しい円形浴槽に浸かり、銭湯が続いてきた100年の物語をしみじみと反芻してみる。終戦直後も、阪神・淡路大震災の時も、地元のために湯を沸かし続けてきた。そしていまも番台に座る大女将は今年91歳になる。
人のために尽くし、人に支えられてきた第一敷島湯。ここの湯は間違いなく、心までをも温めてくれるのだ。
Text by Kundo Koyama
Photographs by Kei Sugimoto
第一敷島湯
- 〒660-0814 兵庫県尼崎市杭瀬本町1-25-5
- TEL : 06-6481-7120
- URL : https://shikishimayu.jimdofree.com/
- 料金:大¥440、小¥160、幼¥60
営業時間: 17時~23時
定休日:火曜日
建物は1923(大正12)年に完成した。湯の温度は40.2~41°C。
クラウドファンディングで目標金額を達成し、故障により休止していた薬湯が復活した。