湯は、縁をつなぐ。
いい風呂との出あいは、偶然の連鎖から生まれる。今回の湯に浸かることができたのは、まさに偶然の賜物と言っていいだろう。
今から2年ほど前、大阪の下町で一軒の銭湯が廃業した。その名は「寿楽温泉」。1963(昭和38年)年に創業し、夫婦で営んできたが、体力的に継続困難となり廃業を決めた。跡を継ぐ若者を探したものの、誰も手を挙げなかった。昭和の匂いが残る素敵な建物だが、もはや解体するしかない……そう決断し工事の打ち合わせを業者と行っていた時、犬の散歩をしていたひとりの男性が偶然通りかかった。「取り壊して駐車場にする」という話を耳にした男性は、その場で「私に引き継がせてくれませんか?」と手を挙げた。店主はふたつ返事で快諾。かくして寿楽温泉は開業60年目となる2023年の春、復活を遂げた。
引き継いだのは近所で社会医療法人を運営する医師の三木康彰さん夫妻。地域活性を目的に銭湯経営に挑戦したという。大きなリノベーションは行わず、番台をフロント形式に変更し、庭の景観をよくする工夫をした程度。地元の廃材を焚べて湯を沸かす技術も先代から引き継いだ。二階の休憩スペースでは定期的にイベントを開催し、地域交流の拠点となっている。
今回「大阪に心まで温まる、とっておきの湯屋がある」という投稿によってこの銭湯を知った。投稿してくれた久保山拓哉さんは、別の湯屋で知り合った風呂友達から寿楽温泉を教えてもらったという。湯は縁をつなぎ、そこから物語が生まれるのである。
Text by Kundo Koyama
Photographs by Alex Mouton
寿楽温泉
- 〒559-0011 大阪府 大阪市住之江区 北加賀屋 1-10-1
- TEL : 080 4788 9586
- URL : https://jurakuonsen.com
- 営業時間:15時~23時
料金:大人¥490 小人¥200
定休日:水曜日
Osaka Metro四つ橋線北加賀屋駅から徒歩5分の場所にある銭湯。1963年創業。現在は10名ほどのスタッフで運営していて、アルバイトスタッフの中には三木さんの患者さんもいる。希望する人は、ボイラーに薪木を焚べる体験もできる。