沖縄で守られる、
銭湯の灯。
沖縄県沖縄市の町・安慶田に日本で最南端の銭湯がある。いわゆる銭湯のイメージとは少し違う、白い壁のモルタル造の建物が、沖縄で唯一の銭湯である「中乃湯」だ。主人は仲村シゲさん。50年近く、たった1人でお湯を沸かし、営業を続けている。
中は、脱衣所と湯船のあいだに仕切りがない開放的なつくり。蛇口は「湯」と「水」の2つに分かれている。2つの蛇口をひねり、ちょうどいい温度のお湯を調整して自分で作り出すという仕組み。細部でも沖縄ならではの湯の文化に触れることができる。
近隣の銭湯が閉業していくなかでも、「中乃湯」を守り続けてきたシゲさん。どんな瞬間に仕事に喜びを感じるのかを尋ねると、「お金が入る時が嬉しい」と笑いながら教えてくれた。そして、「お客さんがいない時は寂しい。でも、お客さんがここに来て、話をしてもらうから、寂しいことはない」と言葉を続ける。シゲさんも、銭湯を訪れる人も、湯上りの “ゆんたく”……お喋りをとても楽しみにしているようだ。
沖縄で1軒しかない銭湯の噂を聞きつけて、最近では東京から訪ねてくる人も多いそうだが、主なお客さんは、やはり地域の人。湯上りの常連さんが、店の前で三線を弾き、一緒に歌うこともあるという。「100歳まで続けたい」というシゲさんの言葉の通り、沖縄でたったひとつの銭湯の灯は、きっとこれからも大切に守られていくはずだ。
Text by Chako Kato
Photographs by Alex Mouton
中乃湯
- 〒904-0012 沖縄県沖縄市安慶田1丁目5−2
- TEL : 098-937-8953
- 営業時間:14:00~19:00
定休日:日曜日・木曜日
料金:370円
国道330号線沿いの安慶田バス停から徒歩2分にある、沖縄最後の銭湯。家庭に風呂が普及し、ガス代高騰などで個人経営の銭湯は1軒だけとなった。沖縄では、銭湯のことを「ゆーふるやー」と呼ぶ 。