湯道百選

04
京都府・左京区

柳湯

YANAGI-YU

湯は、人を饒舌にする。


案外知られていないが、京都は銭湯の都でもある。宿の風呂もいいが、京都ではぜひ銭湯の暖簾をくぐって欲しい。三条大橋に程近い「柳湯」は、昭和6(1931)年建造のレトロな佇まいで多くの銭湯ファンを魅了している。しかしそれ以上に魅力的なのが、ここの湯主だ。
 中谷力(つとむ)さんが祖父のつくった銭湯の手伝いを始めたのは55年前。そこに弟の中谷博(ひろし)さんが加わり、今は兄弟ふたりで切り盛りしている。とにかく、湯に対するこだわりが素晴らしい。井戸水を沸かし、常に足し湯をする。建物は古いが、湯はとびっきり新鮮。湯船に浸かればお湯が贅沢に溢れる。だから、いつ行っても一番風呂の気分を味わえるのである。
 番台はあるものの、女性客への配慮から兄弟は番台に座らず男湯の脱衣所で客と話をしている。客同士の仲が深まる銭湯は多々あれど、男性客と湯主がたちまち親密になる銭湯は珍しい。私もそのひとりで、初めて訪れた日から常連になってしまった。さらに仲が深まると、風呂上がりに缶ビールが出てきた。そして今や、閉店間際を狙って入浴し、暖簾を仕舞った後に脱衣所で宴会を開くほどの仲になった。かつてはこうした常連との宴会が連日明け方まで続いていたらしい。このふたり、とにかく良く喋る。そして湯に浸かった後はこちらも喋りたくなる。湯は人を饒舌にするのかもしれない。
 中谷兄弟の幸せは、自分たちの拵えた湯で心が緩んで人と人が和むこと。浴室から聞こえてくる客たちの笑い声を生きがいにしながら、兄と弟は京の湯を仲良く守っているのである。



まるで実家に帰省したような気分にさせてくれる柳湯。湯上がりに酒を飲みながら、たわいもないお喋りができるのは、いつでも温かく迎えてくれる中谷兄弟がいるから。脱衣所の椅子がテーブルに変わり、今宵も宴会が繰り広げられる。身体も心も温まり、銭湯に和やかな笑い声が響いた。


Text by Kundo Koyama
Photographs by Alex Muton