人と自然と湯と。
秋田空港から車でおよそ2時間、冬は雪でおおわれる乳頭温泉郷。「鶴の湯温泉」は温泉郷の中で最も歴史が古く、1638年から温泉場としての記録が残っている。
鶴の湯が広く知られるようになったきっかけは、冬の露天風呂だ。名物の雪見風呂に浸かるため、遠方からたくさんの人が冬の秋田にやって来る。16代目の佐藤大志さんいわく、温泉の管理で最も大変なのは雪の処理で、先代は「どうせ道路の除雪をするなら宿がひとつではもったいない」と、新たに「鶴の湯別館 山の宿」を開くほどだった。「詰まってしまったり、雪が崩れたりしてパイプが押されて、冬場にお湯が出なくなってしまうのがいちばん辛いですね」と佐藤さんは言う。雪見風呂の歴史は、自然との共生の試行錯誤の歴史でもある。
一見すると湯の色は似ているが、「白湯」「黒湯」「中の湯」「滝の湯」と、4種類の湯を楽しめるのも鶴の湯ならでは。宿の半径50m以内に泉質の異なる源泉が4つも湧くのは、非常にめずらしいそうだ。すりおろした山芋を団子にし、味噌で仕立てる「山の芋鍋」や、魚の岩塩焼きなど、北国ならではの料理も雪見風呂と併せて好評だと言う。
佐藤さんは、地域の中学校の職業体験学習を宿で受け入れている。宿の仕事を体験し、朝に宿泊客の見送りまでした子ども達は「関東や関西から、それに外国からも人がこんなに来ているんだ」と、驚いた様子だった。「ここはいろんな人と知り合えるし、ふれあえる場所なんだよ、というのを教えてあげたかったんです」と佐藤さん。秘湯と呼ばれているが、様々な人が訪れる交流の場でもあるのだ。
佐藤さんは、新緑の季節にも鶴の湯を訪れてほしいと語る。
「5月の後半は地元の山菜や青物がいっぱい出るので、いちばん好きな季節ですね。ブナの木も黄緑色に光るんです」
四季を通じて魅力が光る鶴の湯温泉。雪見風呂はもちろんだが、ぜひ新緑や紅葉の季節も訪ねてみてほしい。
Text by Chako Kato
Photographs by Kei Sugimoto
鶴の湯温泉
- 〒014-1204 秋田県仙北市 田沢湖先達沢国有林50
- TEL : 0187-46-2139
- URL : http://www.tsurunoyu.com/
- 料金:一般 ¥700(立ち寄り湯)
宿泊 ¥10,600〜(1 泊)