湯道百選

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長崎・雲仙市

薫風の湯

KUNPU NO YU 

湯は、風を馳走にする。


この先の人生で、湯を目当てに移住するならどこだろう……。還暦をきっかけに、そんなことを考える。候補として真っ先に浮かんだのが長崎県雲仙市である。

この島国が「日本」と名付けられた701年に開かれた山は、当初、温泉山(うんぜんさん)と呼ばれた。江戸時代には、唯一海外に開かれた出島が近いこともあり外国人の静養地として発展。昭和9年、第一号の国立公園に認定された際「雲仙」と改められた。

雲仙天草国立公園のなかにあり「雲仙地獄」の近くに位置する旅館「雲仙福田屋」。泉質は、酸性単純硫黄泉で白濁したにごり湯。敷地内から自然湧出した湯を使用。

とびきりの湯が湧くのはもちろん、温暖な気候で風光明媚。なにより食べ物が美味い。理由は目の前にある豊かな漁場に加え、種から育てる伝説的な有機栽培農家の存在が大きい。その究極の野菜を求め腕のよい料理人が続々と移住。温泉の蒸気を最良の調味料とし、彼らは雲仙を美食の街に変えた。 

現在「薫風の湯」はリニューアルをし、写真より新しくなっている。敷地内では2022年にオープンした天ぷら「香ふく」も人気を博している。 

雲仙温泉の旅館で使う食材を馬で運んでいた頃、急勾配の山道で疲れ果てた行商人たちを癒す湯があった。それが今日の「雲仙福田屋」である。6つの浴場を有する瀟洒で和モダンな宿だが、宿泊者だけが利用できる展望露天風呂「薫風の湯」がいい。名前にふさわしい、木々の香りがする心地よい風を頬で感じながら開放感抜群の湯に身を沈める。空と温泉がつながるインフィニティ浴。身体が温まったら一旦湯から上がり、”風酔い”を楽しむ。これを繰り返していると「湯は、風を馳走にする」 という言葉が浮かび、だんだんと腹が減ってきた。 

ここには雲仙の野菜を食べさせる天ぷら屋もある。湯上がりの楽しみまで極上である。  


Text by Kundo Koyama
Photographs by Alex Mouton

薫風の湯