湯とともに歩む人生。
熱海では数少ない公衆浴場として、70年以上続いてきた「山田湯」。男湯と女湯のあいだに掛けられた素朴な木の看板は、女将 山田松子さんの手作りによるもの。5年ほど前に拵えたもので、それまで看板や案内板の類は出さずに営業してきた。噂を聞きつけ遠方から来る人、近所の常連、最近では海外観光客まで、さまざまな人がお湯に浸かりにやって来る。
山田湯にはいわゆる「番台」がなく、女湯の横にある台所がその代わりだ。まだ若い頃に夫と義理の父を亡くした山田さん。2人の子どもの育児と仕事を両立させるため、台所で家事をしながら番をするようになった。昼に長めの休憩がある2部制での営業も、子どもの学校行事に参加していた頃の名残りだ。現在は、ボランティアや所属するコーラス部のための活動に充てるなどいつも忙しくしている。たまの休日には、家族や友人と旅行に出かけるのがいちばんの楽しみ。元気の秘訣を訊くと、笑顔とともに「やりたい放題やっているからね」との答えが返ってきた。その明るさに触れたくて、山田湯に来る人もきっと多いだろう。
20年以上前に浴室のタイル交換をして以来、大きな改装はしていない。毎日の清掃は大変だが、今では仕事から帰ってきた長男が男湯の掃除をしてくれることが多い。
「そういう時は、『すごく嬉しい。ありがとう、助かった!』とちゃんとお礼を言います。親子でも、そういうのは大事だと思っているんです」
60年以上、毎日湯を沸かし、山田湯を守り続けてきた。常連客からは「お母さん、頑張ってね。ここがないと困るんだから」と、よく声をかけられるそうだ。
「100歳まで続けたいと思っています。あと14年しかないからね」
ずっと続いてほしいお風呂が熱海にある。
Text by Chako Kato
Photographs by Kei Sugimoto
山田湯
- 〒413-0024 静岡県熱海市和田町3-9
- TEL : 0557-81-9635
- 営業時間:8時~11時、15時30分~21時
定休日:不定休
料金 :一般¥300円