宿も人も、原点回帰。

400年以上の歴史がある栃尾又温泉。古くから湯治文化が栄え、 35℃程のぬるい湯に1〜2時間浸かり、熱い上がり湯で体を温める「長湯」が伝統的な入浴方法だ。1〜2週間程度、滞在する湯治客が多く、中には半年間も滞在を続ける人もいるそうだ。
「自在館」は栃尾又温泉の中で最も歴史のある温泉宿。26代当主の星宗兵さんは東京の大学を卒業後、コンサルタント会社勤務を経て宿を継ぐために戻ってきた。
その時の自在館は昭和の終わり頃から続いた温泉ブームの流れで、いわゆる観光客が宿泊するための温泉宿へと方向性を変えていた。大型バスでやって来るたくさんの客を迎え入れ豪華な会席料理でもてなす一方、昔からの湯治客の足は遠のいていたという。
「時代の流れもあり、ちょっと糸がもつれたような状態でした。お客さんにも『ここの宿の売りは何なの?』と言われたり……。うちは料理で勝負をしているわけではなく、やはり湯治宿。いろいろなことをやりすぎて温泉そのものの魅力に目が行かなくなっていたので、温泉に集中してもらうために何をすべきかを考えました」

まず手をつけたのは料理。長期滞在客のために会席料理は一切やめ、「一汁四菜」に切り替えた。品数のレパートリーは100種類以上。長期滞在が主な湯治客のために、毎日食べても飽きないよう工夫を凝らしている。
温泉に入り、体を休め、体にやさしい食事を摂り、また温泉に入る……。湯治宿として、本来あるべき姿に戻った自在館。その原点回帰は喜んで迎え入れられ、日本で有数の湯治場として穏やかににぎわっている。

「お客さんからは『湯治で体が良くなるんですよね』と聞かれますが、そうではないんですよね。元々ある状態に戻してくれるという考え方なんです。疲れている時は、なかなか自分の力だけでは元に戻れない。だからゆっくり温泉に入って自律神経を整えると、ちゃんと眠れて、ご飯も食べられる。持っている以上のものは出ないけど元の自分のあるべき状態になれるんです」
余分なことはやらずに、あるがままの姿で生きられるように。湯治は、その手伝いをしてくれる。自在館で過ごす時間が教えてくれるのは、そんな自然で当たり前の生き方なのかもしれない。
Text by Chako Kato
Photographs by Kei Sugimoto
栃尾又温泉 自在館
- 〒946-0087 新潟県魚沼市栃尾又温泉
- TEL : 025-795-2211
- URL : https://www.jizaikan.jp/
- 料金: 一般 ¥1,100 (立ち寄り湯)
¥17,270(1泊2食付、1室2名利用時)
7-12歳 大人料金の70%
3-6歳 大人料金の60%
0-2歳 無料
営業時間:立ち寄り湯 11:00-13:00 (受付12:00まで)※要予約
定休日: 土曜、休前日、
その他宿指定の特定日(正月、GW、お盆、SW、三連休など)の他にも多数
上越新幹線の浦佐駅が最寄り。駅よりクルマで約30分。