兄弟の手で蘇った、
次世代への湯治場。
熊本県阿蘇郡の老舗旅館「地獄温泉 青風荘.」は、代表で湯守の長男・河津誠さん、副代表の次男・謙二さん、料理長の三男・進さんの三兄弟が経営している。兄弟の曽祖父の代からこの地で宿を営んでいたと伝わっている。ちなみに「地獄温泉」という名前は、温泉の蒸気が上がる中で岩が転がる様子が地獄のようだからという由来や、火薬の原料が採取できたため人が近づかないように地獄と名付けた……など、いろいろな言われがあるそうだ。
200年近く南阿蘇の湯治場として親しまれてきた地獄温泉だが、2016年に発生した熊本地震とその直後の大雨による土石流により、青風荘.は大きな被害を受けた。土石流の撤去や周辺の道路の整備にまず1年がかかり、さらに本館以外の建物の解体を余儀なくされた。甚大な被害を受ける中、しかし源泉「すずめの湯」が湧き続けている様を見て、謙二さんたち兄弟は宿の復活を決めたという。
苦境の中、支えとなったのは何だったのだろう。
「地震で避難をしていた時から、SNSで状況を逐一上げていたんです。そこに寄せられた、たくさんのお客さんからの『地獄温泉がないと困る』という声が、いちばんでした」
震災から3年経った2019年4月に日帰り温泉として「すずめの湯」が復活。そして2020年9月に、青風荘.は営業を全面再開するに至った。4年以上に及んだ、一からの立て直し。その苦労を謙二さんに尋ねると、「復活に向けてやりたいこともどんどん浮かんで、代表である兄と一緒にああでもない、こうでもないと言いながら過ごしていました。意外と楽しい時間でしたね」と笑顔も交えながら教えてくれた。
「兄弟でやっていて良かったと思うのは、苦難の時に一緒にやれること。1人だとこれだけの旅館を再興するというのは相当なプレッシャーと労力だと思うので、やっぱり3人いるというのはものすごく心強かったです。それぞれ専門が違うので、お互いが尊敬し合っていますしね」
リスタートした青風荘.が目指すのは、「湯治文化の新たな発信地」としての役割を果たしていくこと。復活すると同時に、地獄温泉の未来についても見据えている。
「復興する時に、何がこの旅館の柱になるのか。温泉地が果たす役割について考えて、『人々に癒しを与える場所になればいい』と思いました。これからの人たちにも受け入れられる新しい湯治の形を作り上げて、湯治文化を次世代に伝えていくことが必要だと思っています。日本の古くからの温泉文化を継続するために何ができるか。次の100年も地獄温泉が愛されるような、礎を作れるといいですね」
Text by Chako Kato
Photographs by Alex Mouton
地獄温泉 青風荘.
- 〒869-1404 熊本県阿蘇郡南阿蘇村河陽2327
- TEL : 0967-67-0005
- URL : http://jigoku-onsen.co.jp
- 阿蘇くまもと空港から、クルマで約40分の場所。
料金:日帰り湯 一般 ¥2000、中〜大学生¥1800、小人¥800
宿泊 (1名1泊朝食込み) 本館¥24,200、離れ¥30,800
営業時間:10時~17時(最終受付 15時)
定休日:火曜日(祝祭日営業)