湯は、
新しい自分をつくる。
日本最古の温泉のひとつとされる道後温泉。その象徴である1894(明治27)年竣工の道後温泉本館は、日本の公衆浴場として初めて、国の重要文化財に登録された。曳屋や増改築を繰り返し、非常に複雑なこの建物の東側に、「又新殿」と名付けられた日本で唯一の皇室専用浴室が存在する。これまでにこの場所が使用された回数はわずか11回。1952(昭和27)年のご来浴が最後となっている。現在は一般入浴者に開放されることはなく、観覧のみが許されている。
しかしその設えを再現し、一般客も入浴できる浴室が、別館として建てられた「飛鳥乃湯泉」にある。その入浴作法は独特だ。まず、数寄屋造りの絢爛な八畳間で、一定以上の身分の方が入浴のときに着用していた「湯帳」と呼ばれる浴衣に着替える。襖を開ければ、板の間の先に重厚な石づくりの浴室が!壁面には道後温泉発祥の伝説にちなむ白鷺のレリーフが刻まれ、天井には天皇ゆかりの文様が描かれている。石段を下り、湯に浸かる。注がれる湯の音だけが茶室のごとく響き、湯帳のゆらぎすら心地よく感じる。
又新殿とは、中国最古の王・湯王が好んだ言葉に由来する。
「新しい一日を迎えるたびに、自分自身を向上させる」
湯王はこの言葉を洗面器に刻み、毎朝顔を洗うたびに自分に言い聞かせていたという。又新殿を模したこの特別浴室で得た感覚を、自宅の風呂に持ち帰る⋯⋯これこそが、道後温泉最高の土産なのである。
Text by Kundo Koyama
Photographs by Kei Sugimoto
道後温泉別館 飛鳥乃湯泉「特別浴室」
- 〒790-0842 愛媛県松山市道後湯之町19番22号
- TEL : 089-932-1126
- URL : https://dogo.jp/onsen
- 営業時間:6時~22時(事前予約制)
料金:¥2,040(一組使用料)+大人¥1,690
聖徳太子がご来浴した言い伝えがある道後温泉。本館の保存修理工事に伴い、2017年に別館として建てられたのが「飛鳥乃湯泉」。
本館に残る襖絵には白鷺が描かれている。白鷺が傷を癒やしていたという言い伝えから、道後温泉のシンボルになった。