湯道百選

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山形・鶴岡市

湯殿山参籠所 御神湯

YUDONOSAN SANROJYO GOSHINYU

湯は、
未来への祈りとなる。


湯道文化賞は、入浴行為を文化へと昇華させることを目的として、その取り組みに光を当てるために創設された賞である。記念すべき第一回の特別賞に山形県の「湯殿山神社」が選出された。


山形県の中央にそびえる修験道の山〜羽黒山、月山、湯殿山〜を総称した出羽三山を巡ることは、古来より死と再生を辿る「よみがえりの旅」と呼ばれてきた。生まれかわりを祈る湯殿山は未来を司り、日本有数のパワースポットとしても知られている。しかしそれ以上に、湯の道を極めし者なら、 詣でずして、なにも始まらないと思えるほど、訪れる価値のある場所。理由は湯殿山神社の御神体にあるが、それをここに記すことはできない。「語るなかれ、聞くなかれ」と戒められた清浄神秘の世界。訪れた者だけが体感できる。


その湯殿山の参籠所に「御神湯」として崇められてきた温泉がある。地下一階にひっそりと設えられた小さな浴室。扉を開けると、6畳ほどの部屋いっぱいに青森ヒバの浴槽が広がっている。洗い場はなく、正面の壁沿いに神棚がある。祀られているのは、天照大神の妹神と言われる「丹生都日女神にぶつひめのかみ」。 神棚に手を合わせ、一礼してから入湯。錆色をしたぬる湯が実に心地よい。わずかな白熱灯に照らされる神棚に目を凝らし、湯に解かれるような感覚で心を解き放つ。こんこんと湧く湯の音が羽黒杉でこしらえた壁に反射し、そのリズムが眠気を誘う。いったいどれだけ、湯に浸かっていたのだろう。その時間はまさに、未来への祈りに等しかった。


Text by Kundo Koyama
Photographs by Alex Mouton

湯殿山参籠所 御神湯

庄内空港または山形空港からクルマで約1時間。湯殿山神社本宮は俗世とは切り離された神域。裸足になり、御祓いを受けてからでなければ、お参りできない。参籠所は、湯殿山唯一の温泉施設。源泉は18°Cの二酸化炭素鉱泉。湯殿山は6月〜11月上旬までの開山。