観音様から夢のお告げ。
静岡県掛川市。細い山道を車で走り続けると、不意に「倉真赤石温泉」の木の看板を掲げた家屋が現れる。看板は持田勲さんの手づくり。室内の藁細工などの細かい装飾物も、持田さんが自ら手がけた作品だ。
もともとは造園業を営んでいた持田さん。40年前に、自分だけの「滝」を手に入れたいという目的で山中の土地を購入した。転機は、ある晩に見た夢。土地を整備していた際に見つけ、祀っていた観音様から「すごい温泉が出るから掘ってみなさい」と告げられる夢だった。
「丁寧に場所まで教えてくれて。業者の人には『絶対に出ないからやめておいた方がいい』と言われたけど、掘ってみたら温泉が出たんです」
しかも近辺の土地ではほとんど出ない、硫黄泉が混ざった炭酸泉。当初は身内だけでお湯を楽しんでいたが、いつしか「倉真赤石温泉」としての営業がスタートした。切り盛りをするのは、持田さんと娘のなおみさんの親子ふたり。「大変なことはない」と持田さんは言う。お客さんが「いい湯ですね」と喜んでくれる瞬間にやりがいを感じている。
「朝は9時前に来て、終わるのは大体16時頃。太陽が沈んだらおしまい。お風呂には毎朝入っています。自分の好きなように作って、やりたいことを楽しめるのが、いちばん良いことだよね。」
屋上の露天風呂(※)や砂風呂をはじめ、これまでオリジナルの風呂づくりにも尽力してきた。82歳になったいまもお客さんのために、新しい企画を考え続けている。
夢から始まり、現在も進行中の持田さんと温泉の物語。ちなみに、夢に観音様が現れたのはその一度きりだと言う。
「観音様にはいまも源泉をお供えしています。せっかく温泉があることを教えてくれたからね、それだけは忘れないように。営業をしていない日でもここに来て、毎日、湯の花入りで供えています。」
Text by Kato Chako
Photographs by Alex Mouton
倉真赤石温泉
- 〒436-0341 静岡県掛川市倉真5984-1
- TEL : 0537-28-1126
- 時間:11:00〜17:00(日帰りのみ)
定休:年中無休
料金:1,100円
※現在は、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、
完全予約制、土日祝のみの営業、静岡県民のみ入浴可能。
また、食事の提供も休止している。
JR掛川駅からクルマで約30分。山道を進んでいくと、突如ポツンと出現する「倉真赤石温泉」。五色にも変化するという稀有な温泉を求めて、遠方から多数の温泉マニアが集う。家庭のリビングのような休憩場では、源泉を利用した料理も提供されている。「とろろ月見そば」や、名物の「温泉たまご」は必食。身体の内からも健康になれる場所だ。