湯は、職人に光を当てる。
「湯道」を拓いたのは2016年の初夏。茶道は茶道具の世界を築きあげたことで、多くの職人を養っている。ならば湯道でもそれができるかもしれないと思った。そのためには、まずその核となる場所が必要だ。「茶室ならぬ湯室をどこかに作りたい!」と呼びかけたところ、宮崎のフェニックス・シーガイア・リゾートが手を挙げてくれた。そして完成したのが、湯道初の公認湯室「おゆのみや」。源泉掛け流しの塩化物強塩泉を味わい尽くせるよう、多くの職人の高度な技が集約されている。
まず浴槽は、日本最高峰の左官・挟土秀平が手がけた。茶室の壁は手慣れたものだが、左官仕事で浴槽を作るのは初めての挑戦。濡れると独特の光を放つ「黒霞」という石を散りばめ、二日がかりで塗り上げた。その天井には、宮崎を代表する日本画家・立山周平の桜と満月が描かれている。夜になると天井画に照明が当たり、湯面に満月が現れる仕掛けとなっている。壁にかかっている「湯道温心」の軸は、京都の大徳寺真珠庵第二十七世住職の山田宗正の筆によるもの。籐籠は現代の名工・橋之口幹夫の作品。桶と椅子は、日南家具工芸社が宮崎県産の飫肥杉で作った。他にも手ぬぐい、湯呑み、グラス、かき氷スプーンなど、総勢12名の作品がこの湯室に詰まっている。
職人たちの魂が込められた湯室は、凛とした空気に包まれている。入浴が文化芸術に昇華することを実感できる空間だ。しかし決して固苦しくなく、むしろ心を解きほぐす時が流れている。それは紛れもなく、湯の力によるものであろう。
Text by Kundo Koyama
Photographs by Alex Mouton
おゆのみや
- 〒880-8545 宮崎県宮崎市山崎町浜山フェニックス・シーガイア・リゾート
- TEL : 0985-21-1113(予約センター 09:00-18:00)
- URL : https://oyunomiya.seagaia.co.jp/
- 利用は2時間制で、7時、15時、20時の1日3回。
定員2名。
【料金】
・クラブスイート宿泊プランご利用のお客様:無料/1棟
・クラブツイン宿泊プランご利用のお客様:5,200円(税込)/1棟
・一般宿泊プランご利用のお客様:6,500円(税込)/1棟
宮崎空港から車で約25分の場所にある「フェニックス・シーガイア・リゾート」。そのフラッグシップホテル「シェラトン・グランデ・オーシャンリゾート」に隣接した緑豊かな松林の中にある温泉施設「松泉宮」内に「おゆのみや」は完成した。湯は、太古の海の化石成分が溶け出したミネラル豊富なもの。美人の湯でもある。湯の真髄を知ることができる場所だ。