湯道百選

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兵庫・城崎温泉

御所の湯

GOSHONO-YU

湯は、人生を変える。

 志賀直哉の「城の崎にて」を学生時代に読んだことがきっかけで物書きに憧れ、放送作家という職業に辿り着いた。つまり城崎温泉は人生の分岐点となった湯である。そして今回ついに、40年に及ぶ憧れ熟成期間を経て、城崎温泉の湯に浸かった。志賀先生の文体に感化されていたせいか、静かで鄙びた温泉街を想像していたが、実際は7つの外湯巡りが成功していて大賑わい。どの旅館も宿泊客に外湯券を配布しているので、城崎温泉全体が一つの宿のようだ。
 7つの外湯の中で最も気に入ったのは、京都御所を彷彿とさせる「御所の湯」。檜風呂の内湯と岩風呂の露天が繋がっていて、その先には流れ落ちる滝が見える。ダイナミックな自然を狭い空間で上手く表現しながら、ミストサウナや座湯まで備えた公共浴場の傑作と言えるだろう。

 現代的な温泉街と化した城崎温泉にも、時間の止まっている場所がある。1300年前、城崎温泉を開いた僧・道智どうち上人しょうにんが創建した温泉寺である。実は1873(明治6)年まで、この温泉寺で湯杓を受け取った者のみが城崎温泉への入湯を許されていたらしい。しかも古式入湯作法に従い、まずは湯杓を使って百会ひゃくえ(頭のてっぺん)から湯をかぶる。身体の中に沁み込む湯を有り難がるという儀式でありながら、脳の血流を和らげ、のぼせにくくするという効果もあったらしい。かつては参拝者に貸し出していた湯杓が、現在は2千円で販売されている。城崎温泉で真摯に湯と向き合おうと思うなら、まずは温泉寺で道智上人の像に手を合わせ、湯杓を携えて外湯巡りに出かけるべきかもしれない。




Text by Kundo Koyama
Photographs by Alex Mouton

御所の湯

  • 〒669-6101 兵庫県豊岡市城崎町湯島448
  • TEL : 0796-32-2230
  • URL : http://www.kinosaki-spa.gr.jp/information/yumeguri/4.html
  • 営業時間:07:00~23:00(日帰り入浴のみ)
    定休日:第一・三木曜日
    料金:大人800円、小人400円(小人は3歳から小学生)