湯道百選

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長崎・小浜温泉

おたっしゃん湯
(脇浜温泉浴場)

OTASSHANYU(WAKIHAMAONSENYOKUJO)

湯は、時間を巻き戻す。


島原半島の海沿いに位置する小浜温泉は、奈良時代の肥前国風土記にも記されている古湯である。1684年、この泉質の良さに目をつけた島原藩主の松平忠房は、温泉の取り締まりと管理を専門に行う代官を置き、それを「湯太夫ゆだゆう」と名付けた。以来、湯太夫を代々引き継いできた本多家によって埋め立てや交通網の整備が行われ、小浜温泉は発展を遂げたのである。明治から昭和の初めにかけて、多くの外国人が訪れたが、今日では二十数軒の旅館と共同浴場からなるノスタルジックな温泉地となっている。

 とりわけ昭和12年に創業した「おたっしゃん湯」は激渋好きには堪らない共同浴場だ。あえて大きな改修は避けてきたので、昭和の時間がそのまま流れている。地元の人たちの愛が染みついた脱衣所で服を脱ぎ、扉を開ければ実に素朴な浴場が広がっている。古いはずなのに見窄らしくないのは、手入れが行き届いている証だろう。

 湯は透明の塩化物泉だが、緑色のタイルのせいで綺麗な翡翠色に見える。この美しさのイメージそのままに、とにかく湯が柔らかいのだ。ここ数年浸かった温泉の中で、これほど余韻が心地良い温泉はない。
実は、小浜温泉の熱量(=源泉温度×湧出量)は世界一!源泉温度は105度というから加水されているはずなのに、それを全く感じさせないくらいに泉質が素晴らしく、湯加減もちょうど良い。聞くところによると、常連さんたちが飲泉用のコップを器用に扱いながら湯加減を調整しているという。

 もちろん現在の小浜温泉に湯太夫は存在しない。もしあえて湯太夫の面影を探すとするならば、それはこの地に暮らし、この湯を愛している地元の人たちなのかもしれない。


通称「おたっしゃん湯」の名前の由来は、創業当時、近くで商店を開いていた「タシさん」という女性の名前から。地元の人には、「脇浜温泉浴場」よりもこちらの名前のほうが浸透している。入力料金は、破格の150円。昔から、地元の漁師や農家の方々の日々の憩いの場として、愛されてきた温泉だ。


Text by Kundo Koyama
Photographs by Alex Mouton

おたっしゃん湯
(脇浜温泉浴場)