湯道百選

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群馬・利根郡みなかみ町

ノットアホテル ミナカミトウジ

NOT A HOTEL MINAKAMI TOJI

数寄者の湯室


芸道、特に茶の湯に心を寄せ熱中する人物を「数寄者」と呼ぶが、ここはまさに湯の数寄者が自分の理想をかたちにした究極の湯室だ。建築というフレームによって切り取られた圧倒的な風景の中に人工物はひとつもない。赤城連山を眺めながら湯に浸かると、がんじがらめにされた時間の帯が解けていく。「NOT A HOTEL MINAKAMI TOJI」はその名の通り、革新的な湯治場なのである。

関越自動車道水上ICよりクルマで5分。ヴィラ5棟とレストラン棟、計6棟による”集落”。源泉掛け流しの天然温泉はiPadで湯温を調整可能。最大6名で使用できるサウナも魅力。
photo:Newcolor inc

天井高6mに及ぶリビングダイニングの居心地は素晴らしいが、主役はあくまでも入浴体験であることはその配置を見ても明らか。最も眺めのよいところに15mのインフィニティプールと源泉掛け流しの温泉、そして薄暗い洞窟風のサウナと水風呂が並ぶ。46℃で湧出する弱アルカリ性の源泉は露天風呂に届くまでに42℃という絶妙な湯加減に調整される。湯船と隣り合う温水プールは30℃まで昇温可能。温泉で身体を温めた後、ぬる湯にぷかぷかと浮かぶ幸せ。さらにサウナで汗をかいて水風呂に浸かり、スイスの建築家ピーター・ズントーのリラクシングチェアに寝転んで風に酔う。これほどの贅沢はない。

先進的な木組工法を用いた屋根は高さ6mの大空間。屋根や外壁は、神社や茶室にも用いられる銅板一文字葺で、経年変化を楽しめる。
photo:Kenta Hasegawa

この設計を手がけたSUPPOSE DESIGN OFFICEの谷尻誠さんは、自分の別荘として密かに温めていたアイデアだったと言う。もし自分が風呂を主役にした家を建てるなら、どうするだろう?そんなことを妄想して、湯三昧を楽しんだ。


Text by Kundo Koyama
Photographs by Alex Mouton

ノットアホテル ミナカミトウジ