深雪の中で見つけた美しさ

明治8(1875)年の創業以来、150年のあいだ営業を続けてきた「法師温泉 長寿館」。旅館があるのは群馬と新潟の県境、三国峠のふもとの豪雪地帯。毎年、一冬を越すと建物のどこかしらが雪の重みで傷んでいるほど、深い積雪があるという。ちなみに、あの弘法大師が発見したという伝説から「法師温泉」の名がつけられたそうだ。

かつては知る人ぞ知る秘湯だったが、1981年に旧国鉄のキャンペーンのポスター撮影地に抜擢されたことで知名度が上がり、多くの人が訪ねるようになった。一時期は、立ち寄り入浴客の行列が出来るほど人気だったそうだ。
「いまも長寿館があるのは、あのポスターのおかげとも言えますね」と広報担当の岡村直さんは笑顔で言う。築150年の本館に杉皮葺きの屋根……明治時代の雰囲気を伝える長寿館の佇まいに、昔も今も惹かれる人が多いのは確かだ。
「手を加えないこと、変化をさせないことが大切なのではないかと感じています」と岡村さん。昔の姿のまま続けられているのは、6代当主だった岡村さんの父が環境保護活動に力を入れていたことも大きい。源泉が湧き続けるのは決して当たり前のことではない。周囲の自然環境が維持されてこそでもある。
「温泉は40℃前後で湧いてきてくれます。ちょうどいい温度で湧いて、薪や、ガスや灯油の燃料を使わずにできたのも、先祖を助けてくれた地の恵みですね」

変わらない長寿館を象徴する場のひとつが、本館・玄関から入ってすぐのところにある囲炉裏部屋。朝7時から夜の7時過ぎまで囲炉裏に火が入り、宿泊者は誰でも立ち寄れる。お客さんのあいだでお茶を振る舞い、会話に花が咲くことも多いという。海外から来た宿泊客にもとても評判がいいそうだ。囲炉裏部屋にお客さんが来ると「お茶飲んで行かっさい」と、もてなしていた祖父の姿を、岡村さんはよく思い出すという。
「手を加え過ぎないのは匙加減が難しいのですが、私は個人的にそこにすごく惹かれるものがあります。そういうことを大切にしている人がいてもいいのかな、と」
厳しい冬を幾度も乗り越え、現在まで続いてきた長寿館は、変わらずにいることの美しさを教えてくれる。
Text by Chako Kato
Photographs by Alex Mouton
法師温泉 長寿館
- 〒379-1401 群馬県利根郡みなかみ町永井650
- TEL : 0278-66-0005
- URL : http://www.hoshi-onsen.com/index.html
- 料金:一般 1,500円(日帰り入浴)
宿泊 19,800円~(1名あたり1泊2食付)(消費税込み・入湯税別)
時間:11:00~13:30(日帰り入浴)