湯道百選

105.5
和歌山・西牟婁郡

白浜温泉 崎の湯

SHIRAHAMA ONSEN SAKINOYU

湯は時代の証人となる


和歌山県の「白浜温泉」は、およそ1400年の歴史がある日本三古湯のひとつ。奈良時代からおよそ千年間の詳細な歴史はわかっていないが、江戸の頃には地元の庶民も保養目的で温泉に浸かっていた記録が残されている。戦後には新婚旅行ブームの勢いもあり、温泉地として街全体が発展を遂げていった。

「崎の湯」の湯壺のひとつは、白浜温泉に現存する最古の浴槽。波打ち際のすぐそばに浴槽があるのは、かつてそこに温泉が自噴していたからだと考えられているそうだ。


もの珍しいロケーションに惹かれて、海外からの観光客も多い。営業中はひっきりなしに人が訪れる中、特に人気なのが朝の一番風呂と夕日が見える時間帯。太平洋と一体化するように湯に浸かれる……そんなとっておきのロケーションならではのことも多いという。
「やはり波や風の影響がありますね。風が強い時や台風が来る時は、男湯と女湯のあいだの仕切りを撤去したり、屋根に貼ってあるビニールやすだれを全部外したり。以前は台風の直撃や近づいてくる時に気をつけていたのですが、雨や風はなくても波だけがものすごく高くて、設備がやられてしまうことも続いたので、とにかく天気予報をずっと見てます」と、管理を担当する白浜町観光課の長谷充浩さん。自然を相手にした仕事ゆえの苦労は絶えないそうだ。毎日の営業では、終業後に管理スタッフが毎日掃除し、月に数回は浴槽の大掛かりな清掃を行っているという。


「僕個人の考えですが」と前置きをした上で、長谷さんはこんな話もしてくれた。

「歴史があるもの、長い時間をかけて出来たものを一回なくしてしまうと、お金を出しても戻ってこないですよね。いろいろなことが許す限りは、むしろできるだけ今のままのかたちを残していきたいと思います。奈良時代の皇族の方も、おそらく同じロケーションで、同じ夕日をご覧になられたのかもしれない……そんな話ができる場所って日本でもそんなにないですよね、それもお風呂に入りながら。千何百年も前の施設がお客さんを入れられる場として現役で使われているなんてなかなかないので、残していくことを僕らが第一に考えないといけないなと思っています」


Text by Chako Kato
Photographs by Alex Mouton

白浜温泉 崎の湯