湯道百選

104.5
島根・大田市

薬師湯 温泉津温泉 (別館)

YAKUSHIYU YUNOTSU ONSEN (BEKKAN)

湯は我が師なり


 温泉津町で100年以上の歴史がある「薬師湯」。現在のオーナーである内藤陽子さんは海外暮らしが長く、日本に戻ってきたのは20年ほど前のこと。帰国後、長年勤めていた当時の湯守の男性の引退に伴い、夫の実家である薬師湯の経営を引き継ぐことになった。
「地元の方にとって温泉はあたり前にある空気のような存在。温泉津は温泉があって、海があって、歴史がある非常に魅力的な町なので、それをいかにお客様に感じていただくか。町全体がおすすめの場所になったらいいな、と始めました」

オーナーの内藤陽子さん。

オーナーになった最初の2か月は、寝る間を惜しんで館内の掃除に励み、細かいところまで磨き上げた。
「掃除をする術も経営者として知らないといけないと思ったんです」

湯治や療養のために訪ねる人も多い薬師湯。湯に浸かり、笑顔で帰って行くお客さんの姿を見るうちに、内藤さんは温泉が持つ力に魅せられるように。もっとしっかり温泉の魅力や効能を伝えたい。そのためには知識が必要だと、内藤さんは島根大学医学部の大学院を受験。挑戦は見事実り、60歳を過ぎて大学院に籍を置き、温泉が身体に与える影響について研究を始めた。
「自然の恵みである温泉をいただいて、感謝しながら自分の体調を整える。正しい方法をご理解いただいて実践してもらうためには、きちんと責任を持ってデータを揃えてお伝えするのが、経営者としての道じゃないかと考えたんです。たまたま大学院にも入れたので、データを取って、うちの温泉に合った入り方で体を整えていただきながら、温泉の良さを体験いただけたらいいかなと」


修士課程の研究は、温泉と自律神経の関係について。入浴によって免疫力を高め、体調を整えることが未病対策にも繋がると考えて選んだテーマだった。温泉津が持つ歴史と良質な泉質、そこに内藤さんの知識とエネルギーが加わることで、薬師湯は現代湯治を提供するよりたくさんの人を惹きつける温泉に進化した。

オーナーとしての内藤さんの挑戦は、これからも続いていく。
「今は恵まれた時代ですけれど、いろいろストレスも溜まりますよね。うちはお隣を、もともと温泉施設だったところをカフェに変えて、トータルで温泉と食とリラックスが体験できるようにしています。体と心を整えたい、ライフスタイルを改善したい方が、喜んで来てくださるような温泉地にしたいと思っています」


Text by Chako Kato
Photographs by Kazuyuki Nakano

薬師湯 温泉津温泉 (別館)

  • 〒699-2501 島根県大田市温泉津町温泉津7
  • TEL : 0855-65-4894
  • URL : https://www.yunotsu.com/
  • 料金:一般 ¥1,600 貸切40分
    営業時間:9時〜21時(月〜金)、8時〜21時(土、日、祝)