湯道百選

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京都・京都市

馬鹿庵

BAKA-AN

湯は、閃きを導く。


風呂が道になることを信じて、京都、大徳寺の門を叩いたのが2015年。真珠庵の山田宗正住職から「湯道温心」の言葉を賜り、湯道の歴史が始まった。

最初に行ったのは、入浴する際の心構えを変えるということ。湯の心地よさに魂が解けた時、一日を振り返り、感謝すべき人の顔を思い浮かべて「ありがとう」と呟く。たったそれだけのことで、風呂が心を豊かにする装置に変わることに気づいた。小宇宙と呼ばれる茶室のような湯室があればいい。ちょうどその頃に引き取った古民家の倉庫が空いていた。以前の持ち主が馬主であり、庭に鹿が来ることから「馬鹿庵ばかあん」と名付けた。床材は江戸期に使われてきた敷瓦。その片隅に岐阜の檜創建ひのきそうけんと隈研吾氏がコラボレーションした檜風呂をポツンと置いた。余白を設けたのは、宴会を開くため。そうなると目隠しが欲しくなる。二十年ほど前に購入していた高橋信雅氏の四枚組の絵を屏風に仕立てた。道具への欲が生まれ、辻村史朗氏に手洗い鉢を、中川周士氏に手桶をこしらえてもらった。

中川周士氏に拵えてもらった手桶、「狐桶きつねおけ」。名前の由来は、底面が狐の顔のような形をしていることから。

窓を開け放ち、目の前の木々を見つめながら湯に浸かる。たかが風呂が、道のように思えてきた。次の瞬間、不思議といろいろなアイデアが閃く。湯道の魅力をより多くの人に伝えるためには、エンターテインメントの力が必要だ。そうだ、映画にしよう。湯室で構想を練り、およそ1年半を費やして映画『湯道』の脚本は完成した。この空間でどんな物語を紡いだのか? 23年初春、ぜひ劇場でお確かめください。



Text by Kundo Koyama
Photographs by Kei Sugimoto

馬鹿庵

  • 〒 非公開
  • TEL : 非公開
  • URL : https://yu-do.jp
  • 京都某所に構えた湯室。建物は魚谷繁礼建築研究所によるもの。お湯を介し、人とのつながりをより深くする「湯会」の会場でもある。
    7年前に始まった湯の旅は、徐々に仲間を増やし、映画化のほか、国内外での講演活動や展覧会など、活動の場を広げ、一般社団法人化も果たした。詳細は湯道文化振興会公式ホームページへ。
    2023年公開予定の映画「湯道」についてはこちら