受け継がれる薬草文化。
地元の人しか入らないという「薬草風呂」を目指し、今回訪れたのは岐阜県揖斐川町。霊峰・伊吹山の麓にある旧春日村のエリアは、300近い薬草が生い茂るまさに「薬草の宝庫」だ。
なぜ、岐阜の山奥に日本有数の薬草文化が息づいているのか?言い伝えは多々あるが、仏教を学びに海を渡った僧侶たちが、中国から薬草のタネを持ち帰り、それを伊吹山に蒔いたことが始まり、と言われている。また、旧春日村が東日本と西日本の境目にあり、寒い気候、暖かい気候のそれぞれを好む植物が共存していること、そして下山して医者に通うのが大変な環境にあるため、村に暮らす人々の健康への意識が高く、薬草の知識を積極的に身につけたことも理由にあげられている。
今回、お邪魔したのは、農家の小寺優さんが所有する野天風呂。これは伊吹山の中腹に畑を持つ農家の人々ならではの文化だという。昔は自宅からその都度、畑に通うことが困難だったため、畑のそばに簡易な小屋が建てられた。そして、1日の畑仕事の疲れを癒すために生まれたのが、薬草をたっぷり入れ、ドラム缶でお湯を沸かした野天風呂だった。小寺さんは、風呂に浸かりながら夜空の星を見上げるのが何よりも最高だと、目を細めて語ってくれた。
もちろん、観光客個人での入浴はできないものの、旧春日村の薬草風呂に味わう方法は他にもある。例えば、揖斐川町にある「かすがモリモリ村リフレッシュ館」。薬草文化を広く伝えるための施設だが、名物は何と言っても薬草風呂。伊吹山の麓でとれた薬草がふんだんに使われており、血流が良くなる作用があるため、浸かると体の芯から温まる。小さな村で連綿と受け継がれてきた薬草文化。そのおすそ分けをしてもらいに湯を訪ねるのも、またいいかもしれない。
Text by Chako Kato
Photographs by Alex Mouton
薬草農家の湯
- 〒 ※個人宅のため、非公開