湯は、家族をつなぐ。
湯道を嗜む空間は、温泉や銭湯だけとは限らない。家庭の浴室こそ、最も身近な湯道実践の場である。
湯道は作法にあらず。湯に向かう姿勢なり。・・・これが湯道の精神に他ならない。つまり、湯とどう向き合い、そこにどんな価値を見い出すのか?が重要なのである。
そういう意味で、家庭の浴室には「家族をつなぐ装置になる」という使命がある。西洋において浴室はあくまでも「個」のものでしかないが、日本の場合はそれに留まらない。親と子が裸で触れ合い、同じ時を過ごすことで愛情を深める・・・これこそが、日本の入浴文化の大きな特徴でもあるのだ。
その一端を、まさかくまモンが担っているとは(くまモン生みの親と呼ばれている立場でありながら)夢にも思わなかった。きっかけは2016年の熊本地震。その復興支援を目的に一年間限定でノーリツから「くまモンユニットバス」が発売されたという。(現在はすでに販売終了!)
実際にその“くまモン風呂”を導入したのが、福岡県大牟田市の堤さんご一家。はるばる大牟田まで伺い、図々しくも浸からせて頂いた。初めてお邪魔したご家庭の風呂に入るというのは、もちろん初めての経験。恥ずかしさを覚えながらも、なかなか新鮮でもある。突然押しかけてきた単なる風呂好きのために、入念な掃除を行い、湯の加減や量に神経を使ったに違いない。そのことが推測され、人の心の温もりというものを感じる。そして何より、窓の付いた明るい浴室は居心地が良い。くまモンに見守られながら、ここで親子の様々な会話が交わされているかと思うと、こちらも何だか幸せな気分になってくる。
堤家にとってお風呂とは?と尋ねてみたところ、「日常の何でもないことを語り合う場所」という答えが返ってきた。そう、浴室は日常のささやかな幸せに気づく場所・・・熊本県しあわせ部長のくまモンも大きく頷いているように見えた。