湯道百選

11.5
長崎・小浜温泉

おたっしゃん湯(脇浜温泉浴場)

OTASSHANYU(WAKIHAMAONSENYOKUJO)

大正の香りが残る街。

九州の真ん中、長崎県の南東部にある島原半島。島にたくさんの温泉街があることから、「雲仙温泉郷」としても親しまれている。高原、海辺、城下町と、あるのは3つの大きな温泉街。脇浜温泉浴場は海沿いの街に位置する人気の高い温泉のひとつだ。

 2010年に県のまちづくり景観遺産にも登録されるほど、脇浜温泉の木造の建物には風情がある。それもそのはず、脇浜温泉のオープンは1937年。建物は大正時代のもので、ほとんどそのままの姿で残されている。当時の経営者である宅島久男さんが親族と共同で開業。このうちの一人が「タシ」という名前だったことから、脇浜温泉は、転じて「おたっしゃん」という愛称で呼ばれるようにもなったという。

引き戸を滑らせるとすぐ目の前は番台。奥には脱衣場と、木製のかなり年季が入った鍵のかからないロッカーがある。源泉の温度は90度以上。日本一高温の温泉とも言われている。浴槽は2つに分かれており、片方は熱く、また一方は入浴客が水を足してちょうどいい温度に調節をする。この調整は主に常連客に任されているようだ。海が近いためか、お湯は塩分度の高いナトリウム塩化物泉の掛け流し。つかると体の芯からぽかぽかと温まっていく。

80年以上、地元の人、そして温泉好きが通った脇坂温泉浴場。100年までと言わず、これから先もずっと島原半島の地で愛されるだろう。



小浜温泉では、街のいたるところで湯けむりがのぼっている風景が見られる。


Text by Chako Kato
Photographs by Alex Mouton, Koyuki Ueda

おたっしゃん湯(脇浜温泉浴場)